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「ここ助詞を『に』じゃなくて『へ』にした方がいいね」
細かいアドバイスだなあ。
「ん、良くなった!」
彼女のその一声で、編集部の空気が良くなった気がした。
編集者の席から戻ってくると、彼女は僕がくっついてるガラケーを見た。
壁の方を向いて笑みを浮かべている。
ガラケーとポーチを持って、給湯室の前を通りかかる。
「文春厳しくなったよねー」
「そー、編集長変わってからねー」
「初の女性編集長だから肩に力入ってんじゃない?」
「本誌で揉まれたひとなんでしょ?」
という女性の声が聞こえた。
「本誌」とは会社の名前そのままでもある文藝春秋本誌のことである。月刊の方。
「肩に力も入るわよ……」
彼女は立ち止まって、壁に向かってぼそっとつぶやいた。
トイレで、相手は誰だかわからないけどメールを打って。
21時になった。
「明日は15時から10月分の会議をするので、よろしく。じゃあ、あがりましょう」
「今週は早かったなー」「お疲れさまっしたー」など口々に、退社間際の声が聞こえる。
全員が退社すると。
それから彼女は、?町駅から有楽町線和光市方面に乗って、更に1時間後 自宅についた。その前にコンビニでお弁当を買ってある。
鍵を開けた。
(2)
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