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大勢の断末魔が戦場に響き渡っていた。
敵は魔族。
その強大な力は、非力な人間では太刀打ちできないほどに圧倒していた。
巨大な火の玉が行軍している騎士達の軍団のど真ん中に着弾し、一瞬でその周辺が灰と化させ、そこに人を何人重ねても足りないその体格を誇る巨人が無慈悲にも騎士達を踏みつけ、地面が割れたと共に大量の鮮血が戦場に降り注ぐ。
その他にも二つの頭を持った巨大な狼の魔獣、吸血鬼の集団、魔法を巧みに扱うローブを被ったゴブリン、光輝く膨大な電気を鎧のように纏っている馬の幻獣、特大な翼を空中で羽ばたかせながら地上へ業火を吐き出している竜など、様々な驚異がこの最終決戦前の戦場に蔓延り、十万人の討伐隊の行く末を阻んでいる。
圧倒的な力の前にほふられていく仲間達をただ呆然と俺は見ているだけだった。
恐怖で体は動かない。
いや、その場に吸い付いているように動けなかった。
握っている片手剣を大きく揺らしながら、瞠目した目でただやられていく仲間達を傍観している。
罪悪感。恐怖。後悔。
特にこの三つの感情が溢れだす。
見捨てた。
死にたくない。
来なければ良かった。
そう思うも束の間、戦場に一縷の光が煌めいた。
「あれは......」
目まぐるしい光剣をもって、目の前に広がる惨劇を切り裂いてくその姿はまさに
────勇者だった
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