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男里。
ここは私が生まれ育った町だ。
『男』の『里』と書いて“おのさと”と読ませるこの小さな町は大阪の南西部、いわゆる泉州と呼ばれる地域の中でも更に南西寄りの“大阪のしっぽ”とでもいうべき位置にひっそりと存在している。
別に自然が豊かという訳でもないくせして妙にのどかさのただよう男里であるが、この町には元来より駅が存在しなかった。今もなお農村部としての色合いを残す男里に鉄道が通ったのは実に明治三十年のことであるが、当時の発展度合からみてこの町に駅を建設するというのは適切ではないと思われたらしい。
それゆえ鉄道会社はこのちっぽけな町を避け、そこそこましな賑わいを見せていた隣町に駅を配置したようだ。結果、男里には駅から駅をつなぐ一つの線路が東西一文字に横断するのみとなった。
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