男里駅

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 そうしてその後も慎ましやかに長い年月を過ごしてきた筈の男里であったが、時代はこの町をいつまでもそっとしておいてはくれなかったようだ。男里に新しく駅が設置されるらしいと聞いたのは今より数年ほど前であったように思う。そのころの私は既に生まれ育った男里を遠く離れて暮らしていたのだが、古巣のこうしたニュースには少なからず動揺させられた。  男里を横断する路線は南海本線(なんかいほんせん)と呼ばれており、この路線は遥か明治の時代から現代に至るまで近隣住民の生活を大いに支えてきた地域発展の偉大なる立役者だ。私自身かつては遠方へ出かけるたびに幾度となくお世話になった身でもある訳だから、鉄道会社殿の方針に異を唱えるつもりはさらさらない。  だが。だがである。  まさかあの町に駅が作られるとは。どのような需要があるというのか。一体なんの目的があるというのか。男里の地で生まれ育った私をして、かの町に今さら新たな駅を建設する理由は皆目見当がつかなかった。  男里はほんの小さな町だ。ゆえに駅を持たない町とはいえ、自転車でもあれば隣町の最寄り駅まではそれほど時間をかけず赴くことができた。そのことを誰も不便に思ってなどいなかったし、地元住民より駅の新設を求めるような声があったなどということもさっぱり耳にした覚えがない。
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