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全く、意味がわからない。
一体、何がしたかったんだろう。
やっと開放されたと思ったが、どうにも気持ちが悪くて席を立てない。
例え押し付けであろうと、例え、一方的にさせられてしまったものでも、約束を破るのは気が進まない。
こんな自分が嫌いだった。
都合よく、何でも押し付けられてきた。
しかし、その中でも今回の押し付けは異例だ。
理由がわからないからだ。
今までは、その人が得をするために、私に損を押し付けた。
しかし、今回は様子が違う。
あの男はコーヒーをおごらせるためだけに、こんな大嘘をついたのだろうか。
いや……しかし、それしか理由が思い当たらない。
あきれて言葉も出ないが、代わりに大きなくしゃみが出た。出物腫れ物とは言ったもので、生きる事をやめたはずの私の体は、やはり、まだ生きるための機能を失っていない。
そして、同じ理由で恥ずかしいと言う感情もやってきた。
大きなくしゃみは、店中の視線をこちらに向けるのに十分な効果を発揮した。顔が赤く染まるのが自分でわかった。
周りからは、長い髪に隠れていて見えないだろうが、実は耳まで真っ赤だ――これも、生きている証拠だ。
くしゃみを、そ知らぬ顔でごまかそうとしたが、間が悪く、客の一人と目が合ってしまった。
その客は、事もあろうに、会計を済ませたばかりのトレーを持って、私に近づき、何か、しきりに話しながら『その』席に座った。
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