柿の木の呪縛《改稿版》

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刀は、面白いように俺の意のままに操れた。 いやむしろ、刀が俺の意と身体を操っていたのかもしれない。 今思えば、俺の中のどす黒い火が、刀の邪の部分に強く結びつき、 反するようにお袋を守りたいという気持ちが、刀に宿るお嬢の母の、娘を守りたいという気に添ったのだろう。 とにかく俺と刀は、一心同体と言って良く、 刀を握りさえすれば、俺は怖いものなどなくなった。 最初は自分とお袋の身を守るために振るっていたはずが、 次第に、 日々の糧を得るために、 桃の行方を探るために、 ――ただの気晴らしに、 俺は見境なしに刀を抜くようになっていた。 お袋は、形見の刀を俺が使うことには、最初から反対し、俺が刀を使って何かやらかすたびに言っていた。 「お前は賢い子だ。 力に頼らずとも、お前の知恵と意志で、きっと何とかなる」 しかし、幼い俺は、不安だった。 あやふやな「知恵」などよりも、確固とした「力」が欲しかった。 大切なものを守って行ける、その確信が欲しかった。 お袋の制止を無視して、俺は刀を握り続けた。 刀に、俺の知恵をほんの少し足せば、無敵だとさえ思うようになった。 そうして、桃の行方を探し始めて一年が経った頃。 俺は、 邪魔者だと思えば傷つけ、騙し、 ただただお袋の唯一の願いを叶えることしか頭にない、 「ずる賢い乱暴者」と呼ばれるようになっていた。
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