柿の木の呪縛《改稿版》

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涙さえ出なかった。 悔しさや怒りよりも、そこにあったのは、 絶望、 だった。 俺は、 俺のしてきたことは、 お嬢や優しい鬼を殺した村人や野蛮な鬼どもと、同じだったんだな。 周りを見ずに、自分の利益だけを見て。 仲間という力で繋がって、異質な者を排除しようとしていた、村人と。 自分の力をひけらかして弱い者を虐げていた、あの鬼どもと。 簡単に信じて、 そのくせ裏切られれば簡単に恨んで、復讐に走る。 あまりにも短絡的で欲望のみに忠実な、あの子蟹たちは、 俺、そのものだ。 俺も、 いや俺こそが、そのどす黒い炎の、最初だったんだな。 おっかあ。 すまん、おっかあ。 おっかあは、わかってたんだな。 俺がこの刀を振るうことの危うさを。 俺がきっと、刀の力に溺れてしまうことを。 もういい。 何もかも、どうでもいい。 誰も彼も、好きにすればいい。 俺は適当に遣り過ごす。 他人の言動になど、もう関わらない。 他人の手など借りない。 他人に手も貸さない。 一人で食って、寝て。自分の身を守るためにだけ動く。 残された俺の人生は、それだけだ。 おっかあを守るつもりで、逆に守られて死なせてしまった俺は、 あとは。 おっかあが生かしてくれたこの身を、 ただ、生かしてやるだけだ。
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