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4 チョコとちーちゃん
大好きなちーちゃんと、ぼくにとってはおまけのタクとの生活。そんな生活も気がつけば3年近く経とうとしていた。相変わらずぼくはちーちゃんが大好きで、ちーちゃんもぼくが大好き。ぼくはタクがきらいで、タクはぼくのことがまだ苦手。何も変わっていない。そう思っていた。
でもさ、何かが少しずつおかしくなっていたんだ。ちーちゃんとタクが、2人揃って笑うことがなくなっていた。大好き同士だった2人の関係にちょっとだけ、夕暮れ時の時間帯のような物悲しさが舞い込んで来ていた。
ある日ちーちゃんが外から帰ってくるなり、ぼくを抱きしめて泣き崩れたことがあった。持っていたカバンを乱暴に床の隅に放り投げて、そこからは小さな手帳や書類が吐き出されるようにして飛び出ていた。
「チョコ、チョコ……どうしよう。いやだよ」
ちーちゃんはダムが決壊したようにポロポロと涙をこぼしていた。人間って悲しくなると、どこからその水分が来るのかわからないくらい、たくさんの雫を目から流すんだ。ぼくらはゴミが入ったときくらいしか涙は出ないから、人間が悲しみで涙を流す仕組みがよくわからない。わからないけど、そんなちーちゃんを見るとぼくも悲しくなる。
ちーちゃん、ちーちゃんどうしたの? 何がそんなに悲しいの?
ぼくを抱きしめるちーちゃんの頬を舐めると、少しだけしょっぱかった。ちーちゃんはまだ止められない涙をそのままに呟く。
「…………のに。……に、してあげられない」
嗚咽交じりに吐く言葉がぼくにはよくわからない。断片的に落ちる言葉はどれも抽象的すぎて、犬のぼくには理解しきれないんだ。でも。
「……して。……どうして、生むこともできないの」
絞り出すようにそう言ったちーちゃんの顔があまりにも切なくて。
ぼくはどうしたらいいのかわからずに、途方に暮れて、ただ小さく「クゥン」と鳴くしかできなかったんだ。
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