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3 チョコ、思う
ちーちゃんとタクが夫婦になって約1年が経った。ぼくは相変わらずちーちゃんが大好きで、タクはきらいだった。でも「大」が取れただけでも偉いんじゃないかな。その頃にはタクはぼくにとって良きライバルくらいにはなっていたのだ。
そんなタクが仕事で出ているとある日のことだった。ちーちゃんはお友達を家に招待した。その人はハナちゃんと言ってちーちゃんとは長年のお友達だ。前の家にも何度か来たことがあって、ぼくともよく遊んでくれたりした。ハナちゃんは手土産にぼくへのお菓子まで持って来てくれた。ハナちゃんも大好き!
「わあ、素敵なおうちだねぇ」
ハナちゃんはリビングのソファに座って、あたりをきょろきょろ見渡した。ぼくは尻尾をフリフリそんなハナちゃんに近づく。ハナちゃんは慣れた様子でぼくの頭を撫でてくれたんだけど、その指のひとつに輪っかがはめられていることに気づいた。
あ、これ知ってる。この指に輪っかをはめているってことはなるほど、ハナちゃんも誰かと「夫婦」になったんだな。シルバーのそれはまだ傷もなくきれいで、窓から差し込む太陽の光でキラリと光った。
ちーちゃんはハナちゃんの隣に座り、2人は長いおしゃべりを始めた。ぴーちくぱーちく、電線の雀みたいにやかましい。この2人は揃うといつもうるさいんだから、まったく。ぼくはかまってもらえないのがわかるとガラステーブルの下で寝転んだ。そんななかハナちゃんのちょっと疲れた声が耳に届く。
「もう本当にあいつ、わかってない。こっちだって頑張ってやってるのにさ」
「あなたたち、もう喧嘩してるの」
「だってあんな言い方するからついこっちもさぁ」
おやおや。どうやらハナちゃんはもう「つがい」と喧嘩をしているようだった。ちーちゃんとタクは全然しないのにな。ちょっとくらいすればいいのに、なんてぼくの気持ちを知らないちーちゃんは困ったような顔をしてハナちゃんにこう言った。
「夫婦喧嘩は犬も食わないんだから、仲直りしなさいよ」
なんだそれ? 変な言葉にぼくの垂れ耳が小さく動いた。
そりゃ消化不良になりそうな夫婦の喧嘩なんて、ぼくたち犬だって食べたくないさ。
でもまぁ、ちーちゃんとタクが喧嘩なんてしたらぼくには願ったり叶ったりだから、喜んで食べちゃうかもしれないけどね。
なんて思ってぼくは小さくあくびをしたのだった。
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