第5章 この章では、赤い服が注目される

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第5章 この章では、赤い服が注目される

 1323号室は、これまでになく多くの人間が集まっていた。  鈴木警部、最上警部補の二人の警察官はもとより、あいかわらず何故かいることを許されている進藤と梓の二人、そして、三橋ホテルの総支配人、ホテルスタッフの鮎辺武、ホテルの警備課長である糸魚川。締めて七人の人間が集まっていた。  そのうち、警官二名は緊迫した雰囲気でテーブルを囲んでいる。進藤は腑抜けた顔でソファーに座り、煙草を吹かしていた。梓は肩見の狭い思いをしながら、進藤の横に座っている。ホテル関係者の三人は、まるで教師に叱られた学童のように、壁際に並んで立っていた。糸魚川は体を固くしている。総支配人はしきりに顔をハンカチで拭う。  なかでも、鮎辺の様相は異常だった。顔を蒼ざめさせ、虚ろな目でテーブルの上を見るともなく見ていた。赤い制服と、見事なコントラストを、その身をもって表現していた。  彼らが問題にしているのは、テーブルに置かれた四つの品だった。  一つは、赤いホテルのスタッフ服だ。その本来黄金色に輝いているはずのボタンのいくつかが、黒い染みで汚れている。ボタンは留められておらず、細かい葉が付着している。  その横に、同じく赤いズボンが置かれていた。一見するとなんでもない。よくアイロンが掛けられていて、縦に一直線の折り目が付けられている。ジッパーは閉められておらず、酷く不格好だった。その裾に、目を凝らすと黒い飛沫があるのが分かる。  お揃いの帽子は、やはり赤い。  最後の品は、スーツバックというものだった。ハンガーに掛けたスーツをコンパクトに纏めるための袋だ。ハンガーもバックの布も黒色で、中身がないことを除けば不審な点は見当たらない。
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