序章 華やかな宴

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 あまりにも白すぎる顔が、一頃流行った少年漫画に登場する、死神を彷彿とさせる。鼻の下にカビのように少しだけ生えている髭が、みすぼらしさを強調していた。  紫色の葉っぱが無数に描かれている白地のシャツに、くたびれた黒いジャケットをはおり、糸がほつれて色の褪せた、穴のあいた、中途半端に丈の短いジーンズパンツを履いている。素足につっかけているサンダルは、その茶と黒の色合わせが、まるでトイレ用サンダルのような代物で、よくみるまでもなく革が剥がれている。  反社会性組織のしたっぱか、あるいは売れないライターみたいな装いをした人物に、的場梓が嫌悪感を抱いたのは一瞬のうちだった  進藤ハルヒトなる人物は、口に火の付いた煙草を咥えていた。その状態のまま、松田に向かって気だるげに右手を上げた。 「久しぶり。しばらく見ないうちに、また筋肉をつけたんじゃないか?」  進藤は、梓がその風体から想像していたよりも、幾分低い声で言った。 「ハルヒトこそ、また背が伸びたんじゃないか? 竹みたいな奴だな」 「まあな」  進藤が口を曲げたひょうしに、咥えている白い棒がピクンと動く。それが合図かのように、彼は深く吸い込むと、顔を横に向け乳白色の煙を吹いた。  松田の指摘はもっともで、百七十センチ後半はあると推定される彼より、進藤はさらに数センチ背が高かった。もしかしたら、百八十センチ以上あるのかもしれないなと、梓は思う。 「煙草なんか吸っちゃって。肺ガンになるぞ」
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