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「もう一度、あなたがこれを発見した時のことを教えてもらえますか。糸魚川さん、でしたね」
顔を上げた鈴木警部が、今や石膏像になりかけようとしていた糸魚川に声をかける。
緊張からか、憐れな警備課長は声を裏返させた。
「はい。二十二時半を少し過ぎた頃のことです。ホテルの前の茂みに、これが落ちていたのを見つけました」
「そして、あなたはどうしたんですか」
糸魚川は、唾を飲み込むと、話を続ける。
「見つけた物をひとまず警備室に持ち帰りました。首元に刺繍がありますので、この人の服だろうと思って連絡を取ろうとしました。ところが、どうしたわけだか連絡が取れなかったのです。首を捻りながら、ふとボタンを見てみると、黒い染みがついている。よくよくズボンを見てみると、こちらにも黒い染みがある。そうしていると、警察の方がいらして」
「その時になって、殺人事件があったことを知ったんですね」
「はい。大変なことになったと思いながら、お客様がホテルから出ないようにすることに努めていたのですが、ふと、あれは血じゃないか、事件と関わりがあるのじゃないかと思い至ったのです。おそろしくなった私は、総支配人に連絡をとりました」
「ふむ。なるほど。それにしても、あなたがたがこれを我々に届け出るのが遅くはないですか?」
「申し訳ありません」
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