止まった針

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 雨の中、滝のような豪雨に身を当てられて橋の下に逃げてきた。周囲には何も植えられていない田園風景が広がって薄暗い灰色の視界が広がっている。春に差し掛かったとはいえ、まだ朝方は冷える日も続く。水に濡れたままだと風邪も引いてしまうかもしれない。天気予報では昼から晴れると言っていたのに、曇り空からいっこうに天候は変化せず、ついには大泣きとなってしまう。  私は今の状態を悔いることはないけど、雨が降ったことについては残念な気持ちになる。隣に伸びていた紺色のニットの袖をつまみ、何度か軽く引く。気を引くためかもしれないし、ただ手が何かを掴みたかった衝動に駆られただけかもしれない。  私は「寒いね」とどんよりと曇った灰色の空を眺めて囁く。自分より背の高い彼は一度視線を下ろした後、私と同じ空を見つめて「うん」と同意する。その顔はどこか困ったようで眉を曇らせていた。  彼の口振りはいつも端的で真っ直ぐだ。それなのに、どこか自信なさげに葉で作った小舟のように揺れている。目的地は分かっているのに、不安定でいつしか流れに呑まれそうになる。     
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