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彼は「これはしばらくここで足止めだなぁ」とため息をつく。「そうみたいね。早く止んでくれないかな」。私は彼の諦観する横顔をちらりと一瞥して雨空に祈りを送る。
その短い会話を最後に沈黙が訪れた。
黙した雰囲気が重たいわけではない。それどころか雨音に閉ざされた静寂した空間はどこか安心感すら覚える。
雨音というのは不思議なものだった。傘を差して歩いているとき、こうして雨宿りをしているとき、私たちという空間を周囲から隔絶するように鳴り続ける。ぽつんと、自分が今立っている場所が切り離されたような、そんな不思議な感覚を味わえるのが好きだった。
彼はそんな雨音と似たような雰囲気をまとっている。出会った当初もそんな感じだった。
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