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すこし肌寒い気持ちを覚えて私は身震いした。横殴りに降っている雨が敷居を越えて霧雨状に降りかかってくるため右の袖が濡れていた。自分の身を抱くようにして腕を組む。
「寒い?」彼の見下ろした視線が心配そうに細められている。私は素直に「うん、ちょっと」と答える。
恐らく隣の彼も薄寒い思いをしているのではないかと思う。彼も寒さには強い方ではなかった。
ぽつりと漏れるように交わされる会話。何度となく訪れる静寂。雨音に閉ざされた環境の中で私たちは何かを黙って待ち受けているかのようにも思えた。
それは雨が止むことだったのかもしれない。
遠くの道路からクラクションが鳴って車が通り過ぎていくだけでも、踏切から思い出したように警笛音が聞こえてもよかった。
ともすれば、互いの携帯電話から着信があっても、もしかしたら冷たくなった手を彼が握ってくれても何かが変わったのかもしれない。
私たちは何かを契機として待ち続けている。
今を脱するために、どんなことでも、こじつけじみた理由となるものが欲しかった。
二人の長針と短針は今頃どのあたりにいるのだろう。
私たちが出会ったそのときから時計の針は止まってばかり。
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