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きっかけもなく勇気もなく、何かに、誰かが変えてくれることを祈ったまま、冷えた空気に身を震わせて、私たちは短い言葉のやりとりを続けていく。そして、時が経つのをひたすらに待ち続ける。
「止まないね」
「止まないねぇ」
交わされた言葉には意味はなく、鳴き声のような雨音の中に溶けていく。
私と彼には溝があって壁が隔たる。
けれどどうしても離れられなくて、私は暗闇で彼を探してしまう。
まどろむような時間を過ごしながら私は何度も思う。
――私たちの針は止まってしまったんだな、って。
―了―
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