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「そうか」と主人が呟いた。「さっちゃんは読むのが恐いんだね」
きっと、そうなんだろう。
どうして手紙が来なかったのか、父親が亡くなって透が何を思って手紙を書いたのか。
そして、離婚して30年も経つのに、恵一は今頃になって昔の妻にどんな言葉を遺しているのか……。
私は読むのが恐かった。
「じゃあ、僕が隣にいるから。安心して読みなさい」
そんな言い方に笑ってしまうけれど、温かい主人の言葉は胸の奥まで暖まる気がした。
「ありがとうございます」
私は引き出しにしまった手紙を出してくると、主人の隣に座って手紙を広げた。
『 拝啓
先月、父が亡くなりました。貴女宛ての手紙があったので同封します。
それから、30年前に僕宛に送ってくれた貴女の手紙も出てきました。
封は切られていなかったので、父が隠していたのだと思います。
送られて30年経ちましたが、ようやく僕の手に届いたので読みました。
僕はあの時、貴女に手紙を出しましたね。
これからも、お母さんと呼んでもいいか、と。
それから返信が無かったので、あの頃の僕は貴女に見捨てられたのだと思いました。だから、貴女への想いを断ち切ろうとしました。
でも、ずっと貴女の優しい笑顔を忘れた日はありませんでした。
貴女は僕を心からの愛情を掛けて育ててくれた。それは離れてから日に日に伝わってきました。
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