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あの時に私が出した手紙は透の元に届いていなかった。
でも、どうして? 恵一が再婚したわけでは無かったなら、透の母親として会っていても良かったはずだ……。
恵一は透をとても可愛がっていたし、透のためになることを常に考えていたように思う。
私にヤキモチを妬いて透に会わせないとか、そんなタイプの人でも無かった。
なんだか恵一への違和感が残る中、私は恵一の最期の手紙の封を切った。
その瞬間、『幸子へ』という懐かしい大きな文字が飛び込んできた。
付き合っていた頃に何度も読んだ彼の文字だった。
『 幸子へ
これが幸子の手に届くころには、もう俺はこの世にはいないのだろう。
なんて、ありきたりな文章から始めるのが何だか歯痒い。
幸子と別れて30年、もうすぐ40回目の結婚記念日が訪れる。
再婚している幸子にとっては、30年前に離婚した日ということかもしれないが、俺にとっては結婚記念日でしかない。
幸子と結婚する時、俺は大きな決心の元で結婚をした。
それは、絶対に幸子を幸せにするということ。
そして幸子と別れる時、俺は大きな決心をして別れた。
それは、幸子が幸せになる別れというもの。
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