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「家に呼んで、何かご馳走した方が良かったんじゃないか?」
朝から何回目だろう? 主人はその言葉を何度も何度も繰り返す。
「いいんですよ。外のお洒落な、多少高級くらいの美味しいお店で食事をした方が、今の若い人たちも子どもたちも喜ぶでしょう?」
私はくすくすと笑って、最後に着けるネックレスを選んでいた。
「だけど、久しぶりに会うんだろう? 透君とは。家の方がゆっくりと話せるんじゃないか?」
「ええ。だから、家の近くのレストランにしたの。だけど、ほら。お嫁さんは旦那の実家なんて嫌がるものでしょう? 子どもたちだって幼児じゃないんだし、状況によってはレストランで別れた方がいいかも知れないですからね」
私の言葉を聞いて、主人は少し呆れた表情になった。
「随分と気を遣うんだな」
「ええ。もう、これからはずっと親子でいたいのよ。30年も離れていたのだから。細々とでもいいから、親子の繋がりが欲しいの」
「……そうか。なら、僕も余計なことを言わないように気をつけよう」
いつものように穏やかに笑うと、主人はかなり薄くなってきている白髪交じりの頭に帽子を乗せた。
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