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朝
「にいさん。」
幼い少年は首を思いきり上に引き伸ばし、やっとのことで目と目を合わせる。ビーズのような瞳が、細い体躯を映す。
たどたどしく小さな口を開く。
「どこに、いくの。」
"にいさん"はしゃがみ込んで、二日間煮込んだような柔らかい笑みを作った。
「なーに言ってんだよ。学校に決まってんだろ。」
幼い少年の後ろから、まるで写し鏡の幼い少女がおずおずと顔を出す。
少年の肩を強く掴み、半身ずらして"にいさん"を物悲しげに見つめる。
「いってしまうの。にいさん。」
「5時頃には帰ってくるから、な?」
羽毛のような髪を乱暴に掻き撫ぜると、森林の香りが彼の鼻腔をくすぐる。
物惜しげな少年の頭も引き寄せて、子犬を可愛がるかの如く大袈裟に撫で回す。
瓜二つの少年少女は恍惚に瞳を閉じ、されるがままになる。
"にいさん"こと高校生の蒼野は、立ち上がりブレザーの埃を雑に払う。
少女が小走りに近寄って、おぼつかない手つきでブレザーをはたき始めた。
「おーいいよ。ありがとな、椎」
「う、うん。」
蒼野は軽く手を振って、双子から離れていった。
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