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ドラッグストアで大量に包帯を買い込んだ。
医者に渡された分では足まで隠せない。
_辛いときは周りに相談しなさい
薄い眼鏡の先生はそんなことを口にしていた。
オレは診察中、個人的なことを一言も喋らないでただ頷いていた。
とっとと解放してくれ。
周りになんか誰もいねぇよ。
看護婦は香水を漂わせていた綺麗な人だった。
一分の隙もないナース服が丸い膨らみを押し上げている。
しかし胸中は空虚なまま、何も感じない。
その辺りでおかしいと思った。
こちとら男子中学生だぜ?
自分の部屋にレジ袋を放り、親もいないのに無意味に奥へ押し込んでいた雑誌を取り出す。
乱雑に服が散らされた自室に、梅雨の残り香をまとう湿った風が迷い込んでくる。
「…マジかよ」
青い顔で雑誌を閉じた。
やはり、何一つ反応できない。
本棚のマンガ本を取り出してみた。
いわゆる王道、それでも昔は飽きずに読み倒したシリーズもの。
折り目の付いたページをめくっていく。
次第に読むのが辛くなって、無言で戻した。
「ない…」
記憶を辿った。
部屋を掻き回して、探した。
埃まみれの戦隊フィギュアが出てきた。
右腕は無惨にもがれている。
友達に見せて、笑ったものだ。
ヒーローの癖に腕がないだの、オレが倒してやっただの…
思い出の品が散乱した暗い部屋で、
オレは立ち尽くしていた。
欠如している。
興奮も感動も楽しみも面白さも。
空調の音が静かに鳴り続けていた。
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