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1 ひらがな
平仮名?
ほとんど反射的に訊き返した優駿に、舞は屈託のない笑顔で、「そう、ひらがな」と答えた。
土曜とは言え午後遅い時間ということもあって、ファミリーレストランの禁煙席は割と空いていた。入店したときはまだ家族連れがドリンクバーに列をなしていたが、今は子連れの若い母親たちや中高年の夫婦が長話をしているテーブルばかりだ。
もっとも優駿と舞も、他人のことは言えない。映画を見た後の遅い昼食を済ませてから、飲み物だけで一時間余りも居座っている。
「ひかりとか、のぞみとか。かわいいと思わない?」
「新幹線みたいだな」
「じゃあ、あやとかさやかとか。こころ、なんてのもいいかな。ほら、あたし、『舞』って画数が多いじゃない? 小学生のとき、なかなか自分の名前が書けるようにならなくて、苦労したのよね。優駿もわかるでしょ」
「まあな。習字のとき、やたらデカい字になったりして」
「名前がひらがなだったら、一年生でも書けるし」
窓際のボックス席に座っている幼女の、おしゃべりする母親の横で暇を持て余している様子を盗み見ながら、舞は言う。
「だけど、男だったらどうするんだよ?」
「男の子でも……」
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