煩多

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【煩多@七分前 告発記事:彼女の悪行に関する通報がきた。彼女は同僚のEさんの男を寝取り、ポイ捨てしたらしい。ふしだらな女認定。他の情報も求む】 【煩多@六分前 告発記事:亡くなった坂下さんは、彼女のことが好きで友人に相談していた。あの日、告白するつもりだった。なのに辛辣な言葉でなじり、彼を自殺に追い込んだのだ!】  そんなの初耳だ。彼が自分を好きだったなんて知らない。いや知っていたのかもしれない。「コーヒーどうです?」と彼は決まって徹夜あけの佐和子のためにコーヒーを買ってきてくれた。佐和子の好きなコーヒーは、ひとつ手前の駅にあるコンビニでしか買えないというのに。   あのコーヒー、おいしかったな。  DMにメッセージが入っていることに気づく。恐るおそる、開いた。 【煩多@五分前  もうすぐ逢えるね】  ピンヒールの折れた靴を履いた、佐和子の画像が添付されていた。 「いや!」  佐和子は走った。靴が脱げ、素足になっても止まらず走った。息があがる。暗闇では鳥の鳴き声も、獣の息遣いも草木のすれる音も、すべては方位を失い、全方向から迫ってくる。先ほどは何にも鳴いていなかったのに、今になって蛇口をひねったみたいに、落ちてきて、恐怖で凍えさせようとするのだ。頭上から何らかの音がきこえたかと思うと、耳元に飛び、足元に絡みついて、足を鈍くする。  ピン! となり響くTwitter着信音。カーブを曲がると、やっと光が見えてきた。コンビニだ。おなじみの派手な色合いでパッケージされた24時間営業の憩いの場だ。  ピン!  Twitterの着信音が鳴る。  恐る恐る開いた。 【煩多@1分 以外と走るの、はやいね】 【煩多@0分前  足、ケガしちゃうよ】  ギャア!振り向く。かすかに何かが動いた気がした。たぬきや狐だったのかもしれない。でも煩多じゃないと、誰が言える? 「いやぁ!」  ピン!  ふたたびTwitterの着信。 【煩多@0分 もうすぐ逢えるね】  添付画像には、恐怖にひきつった佐和子の顔。 ピン! 【煩多@0分 みいつけた】  添付画像には、茫然と立ち尽くす、素足の佐和子の姿。 「いやあ!」  コンビニの前に停まる、黒いワンボックスカーの中で人影が動いたような気がした。
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