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「そういった話が好みなのでしょう、“赤の人”ブラッドは」
「そうなのか……考えもしなかった。やはり頼れる部下がいるのは良い。ありがとう、レイト」
「いえいえ……では、私は仕事がありますので」
「そうか、邪魔して悪かったな。だが、いつまで経っても玉座に座っているのが仕事だといわれて何もさせてもらえないのは辛いな」
「……それが魔王の仕事なのです」
「そうなのか……それならば仕方がない」
すごすごと引き下がる魔王に、レイトはほっと胸をなでおろす。
今のところ計画は順調に進んでいるかのように見える。
部屋を出て行く後姿を見送りながら、レイトは再度嘆息する。
「やはり最近特にお年頃なのか特に美しく可愛らしくて困る。お陰で西の魔王も手を出してきやがって……ディア」
そう小さく呟いて、レイトは先ほどのディアの姿を思い浮かべる。
長い艶やかで煌く黒髪に、宝石のような赤い双眸。
白い肌は触れてしまいたくなる位に滑らかで、その微笑みは花のようだった。
こういった書類関係の仕事が“緑の人”レイトの分担なため、魔王城に居る事が多く、その分ディアと会う時間は多い。
だがその分、綺麗なディアと会って話す時間が多いのである。
つまり生殺し状態にされているようなものなのだ。
しかも当のディアは、信頼しているかのように明るい表情で。
「そういえば最近他の奴らもディアを避けていたな……。あいつらも耐え切れないか。一度話し合いをした方が良さそうだな……」
そう、レイトは呟いて書類に目をやったのだった。
ディアは廊下を歩きながら考えていた。
「確かに西の魔王は攻撃的だから、勇者が派遣されたらしいが、一応私の方にも派遣されるはずの勇者がいると、この前こっそり人の国の王が言っているのを遠見の魔法で見ていたのだが……」
やはりどうでも良い魔王なので、放っておかれているのだろうか。
そう思うと、魔王としてはこう、悲しいものがある。
かといって人間達を攻撃するというのも、それでは本末転倒のような気がする。
というか、勇者とはどんな生き物なのだろう。
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