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悠side
空港にて
ズズズッと理子が鼻をすするたびに、通りすがりの金髪の女性が、いったいなんの音?とこちらを振り返っている。
けれど、俺のかわいい理子ちゃんは、きっと周りなんか見えていないのだろう。
俺の目の前に立ち、右手で俺のシャツをしっかりと握って離さない理子。左手で何度も目をこすり涙をぬぐう。
ぬぐってもぬぐっても止まらない涙に俺の胸はぎゅっと締め付けられた。
「今日は最初から全力投球なんだね?」
つい数日前の空港で、理子が涙を我慢していたのを思い出し、俺は少しだけからかうような口調で言った。
「なんのごど~」と鼻を詰まらせながら言う理子の頭をやさしく撫で、
「その止まらない涙の事だよ」と告げる。
もう手遅れだな。すでに目が真っ赤だ。
「だっで~」
ズズズッとまたも大きな音で鼻をすすり俺を見上げる君は、とても愛らしい。
ああ、まずいな……
覚悟してきたはずだったのに、帰したくないと本気でためらいそうになる。
「理子…」
「だ、だに?」
上目遣いで見上げる瞳は涙で揺れている。
「これは別れじゃないよ。また会える」
「わ、わがっでる~」
そっと君を抱きしめる。
「できれば笑っていてほしいな。離れがたくなる」
「ずぐ、ずぐ泣き止むから~」
そうは言うものの、当分泣き止みそうにない本気モードの理子。
すると、
「おいっ!いい加減にしろよ。ゆーとさん困ってるだろ」
少し離れたところで待っていた陸が、しびれを切らしこちらにやってきた。
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