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第1章
私、鈴木麗華 32歳 売れない漫画家。もちろん独身。
名前負けも良い所で、私は麗しくもないし、華やかなんてとんでもない。
それどころか真逆で、超地味な顔立ち。
以前、バイト先の皆で行った旅行の集合写真では「麗華ちゃん、中居さんかと思った」って言われた。
ってか、中居さん着物着てるしね。
一見して、分かっけどね~~。
麗華なんて名前付けられて、ホント親を恨むわ。
親は親なりに、年いってやっと出来た一人娘で、苗字がどこにでもある鈴木だから、名前は派手に可愛らしく付けたかったって。
気持ちは分かるけどさ、自分達の顔見りゃ、大体娘の将来のポテンシャルも想像つくだろうよ。
私は今、そんな名前で苦労した32年間を、脱却出来る職業でバイトを始めた。
そう、それは源氏名。
源氏名なら、自分で自分の名前をつけられるのだ。
つい最近、自宅で売れない漫画を描きながら、2駅先のスナック『来夢来人』でバイトする事にしたのだ。
ママは「あらぁ~~、麗華ちゃんなんて、本名が源氏名みたいだから、そのまま出ても良いのよ~」とかなんとかウシガエルみたいな声で言ってたけど
私は「いいえ、それは困ります。何か付けます」と言って、面接帰りの道々考えた。
地味な顔に不釣り合いじゃなく、それでいて、夜の匂いもするような名前…
明菜、香奈、志保、夏穂。
夏穂ちゃん、うん、良いんじゃないかなぁ?
和風な感じもするし。
って事で夏穂ちゃんに決定。
スナック『来夢来人』は、大通りを一本入った、住宅街へ抜ける路地にある。
古い二階建ての、昔で言う所の三軒長屋の端っこ。
隣りは床屋でバーバー臼井。
床屋としては気の毒な名前だなぁ~~とか思ったけど、店主のオヤジさんは何も気にしてないようだ。
その隣が居酒屋がじゅ丸。
大将の昔のあだ名らしい。
『スナック来夢来人』は昔の映画館のドアみたいに重くて、表面に少しパフッとしたクッションが入ってるみたいな、青いドアに四角い白の取手がついている。
ドアを開けると、内側にカウベルが着いていて、カランコロンと鳴る。
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