第1章

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『スナック来夢来人』は常連さんばっかりで、6時の開店と同時に入って来るのは、近所に住む78歳の山本さんっておじいちゃん。奥さんに先立たれて、息子さん2人は所帯構えて出てっちゃったから、寂しくて1人で呑みに来るらしい。 「山本さん、今日からうちで働いてくれる事になった、夏穂ちゃん、よろしくね~」とママが私を紹介してくれて 「なに?なほ?」 「いえ、夏穂です」 「ん~?かきくけこの、か、かい?」 「はい、そうです、夏穂です」 「あー、そう、なほちゃんね。はい、私は山本です。毎日この時間に来ますから、来なかったら、部屋で死んでるかもしれないから。あっはっはっはっ」と自分で言って自分で笑った。 いや、ジイさんよ、夏穂だから… 山本さんはビールをジョッキで2杯と厚揚げワケギぱらぱらをつまんで、ママに今日は暑くてたまんなかったって話しをしている。 ママは適当に相槌を打って、カラオケどう?と薦めた。 この店はカラオケ1曲200円だ。 正直高い。 だから、ママはすぐにカラオケを歌わせる。 「夏穂ちゃん、山本さんに山本譲二入れてやって~~」と… 山本のじいさんが 「なほちゃん、山本譲二じゃなくてね、私はね、どうすっかな?」と考えている間に、次のお客さんが入って来た。 「いらっしゃいませ~~」とカウンターに案内するも、その人は勝手に4人席に座った。 ママがまたもや 「お疲れさん、タケちゃん。今日から働いてもらう事になった夏穂ちゃん、若くてピチピチよ~~。よろしくね~」と紹介してくれた。 私は、おしぼりを渡しながら 「夏穂です。よろしくお願い致します」と言うと タケさんは「あー、はいはい。宜しくね~~。俺は週3位でここ来っから」と言いながら、顔と頭を風呂上がりか?って位に拭いて 「ん?なんだ?又、このおしぼり臭えぞっ。ママ、ダメだよ、これ~~」と文句を言った。
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