第1章

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9時を回った頃、カウンターの山本のじいさんが、えらく静かだなと見ると、薄暗がりの中、壁に寄りかかって、上を向きうっすら口を開けて寝ていて、一瞬死んでるのかと思ってギョッとした。 ママは、小慣れていて その頃になると「はいはい、山本さーん、ベッドタイムよ~~」と甘い言葉とは裏腹に震度6弱位の揺れで起こす。 じいさんは、グッグゲッと咳払いのような物をして、起きると 「あ、はいはい。帰る帰る」と言って、壁にかけてある帽子を被り、ヨロヨロとカウンター椅子から降りて、お会計を済ました。 ドアを開けてお見送りするようにママに言われて外で「ありがとうございました~」と言うと 「あー?あんたは誰だっけ?」と言って帽子を取って「おやすみー」と言った。 山本のじいさんの被っていたハットは、古い物だけど、とっても高そうで、私に最後挨拶する時に、帽子を取るしぐさも、何だか このじいさんは、昔ちゃんとした役職に就いていて、バリバリ第一線で働いていた人なのかなぁ?と思わせた。 10時近くになると タケさんが「飲み過ぎたぁ~~。夏穂ちゃん、おあいそ~~」と言って、帰って行き、 店内は鎌倉電業の3人だけになった。     
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