さらに続きます

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…………。饒舌に話していた長沢の会話が詰まった。人身事故の現場を想像したのだろうか。彼の創造力ではそこまでが限界だ。しかし、ふと言った長沢の言葉に、耳を疑った。山崎じゃなくて良かった。 マジで言ってるんですか? ああっ、マジ。気をつけて戻ってこいよ。俺は訊き返した。一瞬でも心が晴れたことは嬉しかったが、すぐに雲が広がった。感情の浮き沈みは相変わらずで、言葉ではいくらでも言える、と思いを新たにした。ホームにアナウンスが流れた。俺は気持を整えながら電車を待った。 昨日は悪かったな。翌日、出社すると、長湯が頭を下げた。俺がいけないんです。眠ってしまいましたから……。俺は心にもないことを言った。社内では先輩。そう答えるのが正解だからだ。俺はそそくさと席に着くと、深い溜め息を吐いた。机の隅に置いた名刺をみると、吐き気がした。俺は口元を押さえながら慌てて立ち上がった。トイレに駆け込み、嗚咽とともに便器にもどした。立ち眩みもしたが、便座に腰掛け、胸を摩った。どうした?山崎。長沢が声を掛けた。 なんでもありません。 嘘吐くなよ。顔が真っ青だぞ。そこに横になれ。とソファを指差した。ふらつくのを気にしながら、俺はソファに横たわった。天井が回ってみえた。まるで酔っぱらっているようだった。すぐに目を閉じると、暫くして気分が落ち着いた。 おいっ、これ。目を開けると、グラスを持った長沢が立っていた。こんな時でもぶっきらぼうなのが彼らしい。ソファの前のテーブルにグラスを置き、すぐにその場を立ち去った。俺は身体を起こすと、グラスを握った。飲むのを躊躇った。まさか毒など入れるはずもないが、なぜか一瞬息を止めた。ネガティブな感情は、さらに自身を落ち込ませた。他人には何でもないことでも、自分には死にたくなるほどの感情が沸き上がる。テーブルにグラスを置き、その場で礼を言おうとしたが、大声が出なかった。もう一度横になった。さっきよりも気分が良くなっていることはわかった。天井が回っていなかったからだ。 今日は帰るか? 心配した上司が耳元で囁いた。仕事が出来なければ、ここに居ても仕方がないことはわかってはいたが、自ら答えは出せなかった。帰った方がいいぞ。タイミングを計ったように、長沢の声がしたかと思うと、こちらにやってきて、俺の方を叩いた。 有難うございます。俺は深々と頭を下げた。 
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