ストップ、ザ、孤独

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「いらっしゃいませー!」  持っていたケーキとパックの珈琲をレジで渡す。金髪ギャルの店員は、笑顔で受け取るとお決まりの作業に取り掛かる。慣れた手付きで、常と変わらず。 「……」  僕は、無言でその流れを見ていた。  今日、僕は自殺する。  別に何てことは無い。生きてるのが嫌だから。  もう疲れたんだ。  最後に買ったのが、コンビニでケーキと珈琲なんて、笑える。  まぁ、誰も僕のことなんて気にしてないさ。たとえ、今日今すぐここで死んだって、どうせSNSで書かれて終わり────「────あの、」  顔を上げたら、どこか必死そうな目で僕を見詰める店員がいた。 「いつもありがとうございます。またどうぞお越しくださいませ!」  僕の様子に、『何か』を感じたんだろうか。  今日、僕が死んだら、この店員は、もしかしたら悔やむんだろうか。  僕を止められなかったことを。  徐ろに僕は右を向く。  同時に、店員も。 「その一言が、誰かを救う」店員が言う。 「何気無いサインが、命を助ける」僕が言う。  そして。 「ストップ、ザ、孤独」  二人揃って、締めを言ったところで────「────カット、オーケーでーす!」  カチンコが鳴った。途端、あちらこちらで声が交わされる。 「お疲れ様でしたー!」 「お疲れ様でーす」 「お疲れ様……相変わらず凄い変わり身だな」  一度撮影終了後すぐ挨拶し合ったあと、スタッフが撤収作業する間、メイクを落とした僕は近くの植え込みのブロックに腰を下ろしていた。  そこに同じくメイクを落とし、金髪ギャル店員から黒髪地味めの完全に元の姿に戻った、彼女がやって来た。  僕たちは役者だった。と言っても売れっ子の、よくテレビに出るようなヤツじゃなく、エキストラやサクラなどによく使われるアルバイターだ。  今回は啓発PRのCMの撮影だった。テーマはすばり、ストップ、ザ、自殺。科白では『孤独』となっているが本当は『自殺』だ。  運良く郊外に在る閉店後の店舗を借りられたとかで、野外での撮影になった。 「こんなんで、自殺なんて止まるんですかねー?」
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