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僕と同じように植え込みに腰掛け、持っていたペットボトルに口を付けながら彼女が言った。有名人ではない僕らは深夜でもない限り現地集合現地解散なので、スタッフがこちらを気に掛ける素振りは無い。片付けが終わればまた一回声は掛け合うだろうけど、そんなものだ。
「さぁ……止まらないかもねー」
「ですよねー。店員だってあんな気にしてないでしょうしねぇ」
さっき撮り終えたCMの内容に、彼女は思うところが在るようだ。僕はこのあと待ち合わせの友人にDMしつつ適当に答える。
「てか、常連ったって、余程おかしいって思わなきゃ、声なんて掛けないですよ。て言うか、イマドキ金髪ギャルなんてバイトに採用しなくないですか?」
「まぁ、それ言っちゃ、お終いでしょう」
友人がこっちの最寄りにそろそろ着くらしいと返信が来た。僕も頃合いを見計らって行くことにする。
彼女に視線を流すと、彼女も僕を見ていて、目が合った。
「もう行きます?」
「うん。スタッフも粗方片付け終わったみたいだし」
次の予定に合わせていたので在って、別にスタッフを待っていた訳では無いが。作業中に声を掛けるのは事故になりそうだし、丁度だろう。
「じゃあ、私も」
彼女が、僕より先に立ち上がった。僕は電車で来たけれど、彼女はバスだった。
「バイト?」
「そーでーす!
コンビニバイトっ」
にしっと、そんな効果音が付きそうな笑い方だった。僕も笑って腰を上げる。
「じゃあ、また」
「うん。────ああ、そうだ」
去ろうと背を向け掛けた彼女を、僕は呼び止める。彼女も素直に返そうとした踵を停止した。
「はい?」
「あのさ、
救われる人は、いるのかもよ?」
「何がです?」
僕の発言がどこから来ているのか察せない彼女は、不思議そうに首を傾げた。
「さっきの話だよ。
自殺が止められるかはわからないけど、何の気無しの言動で救われる人はいるんじゃないかな」
「はぁ……そうですかね?」
僕の言葉に、彼女は少々納得の行かなそうな表情をした。僕は笑んで、少し息を吐く。
「うん。……じゃあね」
「はい! 次も会ったらよろしくお願いします!」
僕に別れを告げ、スタッフに今一度挨拶すると、彼女は今度こそ現場を後にした。スタッフも大半は撤収しており、車に乗り込んでいた。僕も軽く挨拶して、彼女の小さくなる後ろ姿に目線を戻した。
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