眠りに落ちて忘れたい

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

眠りに落ちて忘れたい

書斎に1人佇む。 ガラス製のデスクトップライト、タイプライター、万年筆とインク壷。 シンプルなワイシャツに、黒い腕抜きをして、 今日は大量の計算をした。たいへん捗った。 息抜きにドリップしたコーヒーを。少し薄めのアメリカンで。 チェコの土産だと差し出された、小さな手紙のようなパッケージの砂糖の封を開ける。 スプーンの渦の中にサラサラと溶けていく。 温かな香りに包まれる。 窓の外は冷たい雨だ。 彼女はいつもブラックで飲んでいたな。 《私だって、たまには砂糖もミルクも入れるわ。》 そう言ってくすくすと笑うんだ。 頬を涙がつたっていく。 どうして分かってもらえなかったんだろう。 どうして分かってあげられなかったのだろう。 もう一度、なんて 酷く未練がましくて情けなくなる。 いいや、もう会わせる顔なんか。 これ以上 傷付く覚悟もなくてな。 「馬鹿みたいだ、俺」 ソファに身体を横たえてギュと目を瞑る。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!