禁猟区。─an “Eden”─

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  「……ただいま」  帰るなり視界を覆われ拘束される。あたたかい温もりにどうせ誰だか予想が付いているので、私は慌てもせず声を掛けた。 「放して、莱」  この弟はどうも甘えたで困る。抱き着いて、返事をしない。 「放しなさい」  言いながら背に手を回し、引き剥がそうと引っ張るも────身長差と体格差で勝てる訳も無い。  私は最早癖としか言い様が無い溜め息を付いて服を掴んでいた手を開きそのまま背を撫でる。 「莱?」  まさかまた鬱なんじゃなかろうな。私も随分不安定だけど弟はその上を大幅に行く。  迷惑極まりないけれど、血は繋がらずとも弟なのだ。  何度か背を撫でてやる。いい加減靴を脱いで部屋に上がりたいのだけれど、とにかくこの弟をどうにかせねばなるまい。 「どうしたの? 莱」  尋ねても答えは無い。段々疲れて来て、私は手が自由で有るならば頭を抱える。  そんなとき。 「采、『アイツ』の匂いがする」  莱が私を放さずに言った。『アイツ』……? 私は頭に疑問符を浮かべたが早々に気付く。多分信頼のことだ。  古風な名に似合わずセンセーショナルなファッションを好む信頼は、だが意外と香水の類いを着けない。肌が弱いから嫌いなのだそうだ。服に撒けばと言ったらちょっとでも肌に着くと痒い気がすると敬遠していた。  とは言え、体臭らしきはしないに等しいので私は嫌では無い。服の洗剤や柔軟剤の匂いとか、石鹸の薫りとか。私は嫌いじゃない。  弟も体臭が無いに等しければ香水も嫌ってる。ただしこちらは人工的な香水の匂いそのものが駄目なようで。  たまに帰って来る母すら香水を着けていれば避ける程。……いや、ちょっと待て。  信頼の匂いがするって何。そんな匂いする程……ああ、抱き締められてましたけど信頼にも。  親兄弟ですら体臭は違うらしいし、匂いに敏感な莱にはわかるものだろうか?  しかし幾ら洗剤やそこらに家庭的な違いが有ろうとも、バラせば実は一人暮らしの信頼の家は私と同じ洗剤やら柔軟剤なのだ。信頼の希望で。  なのでわかるはずが無いのに。移るにしたって、その辺なんだから。 「何で?」 「アイツ特有の匂いがする……」  やー、待て待て。無いでしょう。さすがにそれは無いでしょう。  けれど私が突っ込む前に、トーンの下がった莱の声。物凄く機嫌が悪そうな。 「莱?」 「腹が立つ」  何で。
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