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「莱?」
「アイツだいたい馴れ馴れしいんだよ、采に。ベタベタしてさ。気持ち悪い」
……非道い言われよう。曲がりなりにも私の恋人なのに。
莱は言うだけ言って不機嫌なまま、ようやく私を放した。束縛が解除され、私は深呼吸をして部屋に上がった。
自室に荷物を置き服を着替えると夕飯の支度に取り掛かるためキッチンに向かう。キッチンに入る前リビングを抜ける直前、不意に立ち止まり私はパネルをタッチした。開いたのはアルバムだ。
実父と実母。笑う地味な二人は私の両親。母が語るには、この写真の約一箇月後に死んだらしい。
「……」
写真を戻した。キッチンに入る。頭にはすぐ浮かぶくらい、見詰めて、見据えて、眺めた写真だ。
私が生まれる一日二日、少し前。母の出産に、要は私が生まれるときに立ち会おうとして。
……彼らは事故って死んだのだ。
気を取り直して私は、調理に取り掛かる。夕飯を作るためだが半分は思考に没頭するため。何かをしながら考えるほうがいろいろな意味で捗るのだ。
頭で私は今日の一日を振り返っていた。手は手際良く野菜を解体し肉を切り刻む。その間も私は淡々黙々考えるのだ。
たとえば、担任とのやり取りとか。信頼と話したこととか。今日出た課題、レポート。内容から期日まで。そして。
「……」
“栄城さん”
あのケバ女のこととか。
“栄城さん。莱くんのことなんだけどー”
思い出せばムカつくだけなのだが、逆にムカつき過ぎて浮かべずにはいられない。
心なしか、刻む包丁のリズミカルな調子も今やあまり良くない感じ。
と言うか、力が籠もって鈍い。
“今度いつ学校来るかしら? あ、来なくても良いんだけど、”
“莱くんと、外で会えるならまぁ学校に来なくても───きゃっ”
フザけるな。包丁が、ざくざく、だんっと書き消すように音を鳴らす。
“だからね、栄城さん────”
「……っ」
“────誘い出してくれない? 莱くん。そうすればあとは、”
ウザい。
“押し倒して、食、べ、ちゃ、う、からっ”
“……なぁんてぇーっ────”
包丁が、一際音を大きくした─────。
「……った!」
勢い付け過ぎて、気付けば自分の指を傷付けた。さっくり、人差し指が切れている。
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