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いつ見ても地味だと思う。
手にした写真には私に良く似た男性と、私の面影を滲ませる女性。……と、言っても私のほうが似ていて、私のほうが面影を持っていると言うのが正しいのだけど。
父と母と、共に写るこの二人に私は会ったことが無い。なぜなら、彼らは私が産まれる前に事故で亡くなった。私が母のお腹で順調に育ち、まさにあと数週間で予定日と言うときに。
彼らは私の遺伝上の、要するに実の両親だった。
私の世界は、私が認識するよりずっと、だいぶ進んでいた。
不妊治療は進歩したけれど、やはり摘出してしまった子宮は復元が難しいらしく上手く行かない。それで取って代わって認可されたのが『代理母出産』だ。
私の実の母は若いときに癌を患ったらしい。子宮癌だ。気付いたときにはもう治療が難しく摘出しかないと言われたそうだ。
実母はすでに実父と結婚していて、のちに残した自らの卵子を受精させ私を儲けた。───今の私の母に頼んで。
つまり今の母は養母に当たる。いや、実子扱いになってるけれど。両親が生きていれば私を“産んだだけ”の人だった。
この母が実母の友人で、随分とのほほんとした人だったのだ。現在進行形にそうだが、よくよく考えれば豪胆とも言える。……や、考えずとも、か。
何せ“困っていたんだもの”とそれだけで、私を産むのを承諾したのだから。私は溜め息を吐きパネルに触れ写真をまたフォルダに戻し、アルバム画面を操作して閉じた。
便利な世の中。どんな管理も今はボタン一つでやる。
この世界は、とかく機械信仰じゃないのかとか主導者は機械なんじゃないのかと疑いたくなる程、機械が溢れてる。
機械無くして生活が出来るか。いや、否。それぐらいに。
たとえば壁に填められたタッチパネルに触れれば室内の空調、照明、テレビやガス、水道はおろか、触った手の平から何と健康診断まで即座に出来てしまう。
便利な世の中。他に言葉は無い。
しかし。
便利は同時に、不便も兼ね備えている。
特に。
「……ねぇ、」
私は顔を向けずに目すら向けずに声を投げた。
「いつまでそうしている、つもり?」
私の横の、壁まで半径一メートル範囲の間に。
そこに相手がいるからだ。壁際。自発的思考回路を持つ有機生命体。霊長類ヒト科目ホモ・サピエンス。
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