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智秋は自室に戻った。
六畳の和室。そこには二段ベッドと勉強机が一つあるだけ。智秋の机はない。買ってもらえなかった。小さなローテーブルを使う。だが優しい春海は勉強机を決して使わず、ローテーブルに向かい合って、いつも一緒に勉強をする。
智秋はベッドのはしごを登り、うつぶせに寝転がった。
涙がじわりと溢れて、泣き声とともに枕に吸い込まれていく。
どんなに頑張っても、母は認めてくれない。
彼女は、春海がいればいいのだ。
春海には敵わない。
春海が羨ましい。
だが一方で春海が大変な思いをしていることを、智秋はちゃんと理解していた。
母親の自分勝手な期待に逆らわないのは、彼女の性格や行動に問題があっても、育児放棄しないからで、敏い春海は、母親の苦労を分かっているから、決して逆らわない。
悪者で邪魔なのは、智秋だ。
母に顧みられず、兄一人に苦労を強いている。
(兄ちゃんみたいに、きれいで、かしこく生まれたかったな……)
泣きながら、いつの間にか智秋は眠っていた。
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