01 春海と智秋

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 智秋は自室に戻った。  六畳の和室。そこには二段ベッドと勉強机が一つあるだけ。智秋の机はない。買ってもらえなかった。小さなローテーブルを使う。だが優しい春海は勉強机を決して使わず、ローテーブルに向かい合って、いつも一緒に勉強をする。  智秋はベッドのはしごを登り、うつぶせに寝転がった。   涙がじわりと溢れて、泣き声とともに枕に吸い込まれていく。  どんなに頑張っても、母は認めてくれない。  彼女は、春海がいればいいのだ。  春海には敵わない。  春海が羨ましい。  だが一方で春海が大変な思いをしていることを、智秋はちゃんと理解していた。  母親の自分勝手な期待に逆らわないのは、彼女の性格や行動に問題があっても、育児放棄しないからで、敏い春海は、母親の苦労を分かっているから、決して逆らわない。  悪者で邪魔なのは、智秋だ。  母に顧みられず、兄一人に苦労を強いている。 (兄ちゃんみたいに、きれいで、かしこく生まれたかったな……)    泣きながら、いつの間にか智秋は眠っていた。
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