10 愛おしい

12/17
前へ
/287ページ
次へ
「でもおかしいな。北園の件、全然報道されてねえぞ?」 「そう……」  新聞もテレビも見ていない智秋は、何も分からない。 「北園の親父が、金の力で報道はもみ消したのかな。ああ。でも逮捕ぐらいじゃ、怒りが収まらねえ。社会的制裁も受ければいいのに」 「そんな亜泉が怒らなくても……」 「怒るに決まってるだろう! ダチが二度も同じ奴に傷つけられて、黙っていらえるほど、薄情じゃねえよ!」 「ご、ごめん……」    あまりの剣幕に思わず、智秋は謝ってしまう。 「……あ、大声出して、ごめん。刺された上に、俺に怒鳴られたら、たまんないよな」 「ううん。本気で心配してくれるの分かるから、うれしいよ。ありがとな」  亜泉は長居せず、すぐに帰った。  智秋の体調を気遣ってのことだ。  立て続けに三人の見舞客の相手をして、智秋は思ったより疲労していた。  夕飯は、午後六時。  食事に半分くらい手を付けて、横になると、すぐに眠気が襲ってくる。寝ても寝ても寝足りないのだ。
/287ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2244人が本棚に入れています
本棚に追加