10 愛おしい

15/17
前へ
/287ページ
次へ
「あなたに会った時、訳の分からない、ふわふわした気持ちになったのを、覚えてる。今思えば、あれが初恋だったんだ。でも子ども過ぎて、全然分からなかった。それに、清史郎さんと兄ちゃん、すごいお似合いだったしね。俺は二人が番になればいいって、最近まで本気で思ってた。だから、あなたを好きだとずっと認められなくて……。ね、あの時、握手したの、覚えてる?」 「ああ。よく覚えている。今より、もう少し小さくて、とても可愛いらしい手だった」 「今ね、あの時と同じ感情が、清史郎さんから流れてくるのが、すごくよく分かる。俺、あなたにあの時からずっと愛されてるんだね。俺もあなたを愛してるよ。清史郎さん、俺の運命の番は、あなたなんだ」  清史郎は智秋の小さな手のひらを、両手で優しく包んだ。 「なぜ、今、そんなことを言うんだ……智秋」 「それは、清史郎さんが、俺から離れようとしているからだよ」  包んだ手のひらに、清史郎の額が触れた。  かすかな震えに、彼の心の慟哭を感じる。 「なぜ、あの時、北園を抹殺せず、国外追放するだけに留めたのか。悔やんでも悔やみきれない。あの男は、反省するどころか、智秋を逆恨みして、一度ならずも二度も傷つけた。全て俺の読みの甘さが原因だ。俺は君を二度も守れなかった。もう君を好きでいる資格すらない……だから」 「違う。違うよ。清史郎さん。あなたは悪くない。あなたが俺を守ってくれていることには、心から感謝している。でもそれじゃ、だめなんだ」
/287ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2244人が本棚に入れています
本棚に追加