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01 春海と智秋
第1話 春海と智秋
小学校からの帰り道、浅香智秋(あさかちあき)の足取りはいつもゆっくりだが、この日はいつになくのろくて、視線の先には、鈍い灰色のアスファルトしか見えていない。
小学一年生の智秋は、いつも五つ年上、六年生の兄、春海(はるみ)と登下校する。
智秋は甘えん坊で、春海と手を繋いでいても、兄が幼い弟の遅すぎる歩調を合わせていることに気づかないし、兄は文句の一つも言わない。
本当に仲の良い兄弟だった。
「智秋、ずっと下むいて、どうしたの? 本当はお腹が痛いんじゃないの?」
何度も智秋を気遣う言葉をくれる春海に、ようやく智秋は首をぷるぷると振って、涙目で兄を見つめる。
そして、ポケットからくちゃくちゃになった紙を、春海に「これ……」とおずおずと差し出した。
受け取った春海は、丁寧にほぐして内容を確認すると「算数のテストだ」とつぶやいた。
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