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03 発情期
第3話 発情期
智秋が南條清史郎に会ったのは、中学一年生の時の、その一度きりだ。
清史郎を怒らせたとずっと気にしていたが、その後、春海が彼と別れた様子はなく、智秋はほっと胸をなでおろす。
後日知るのは、清史郎が大企業の南条コーポレーションの御曹司だということだった。
帝王学の一環で、学業の合間に既に経営参画していて、子会社を一つ任されているらしい。
母親は、春海がセレブと付き合っていると知り、かなりご満悦で「絶対に別れたらだめよ」と念押ししている様子は、滑稽だ。
春海は曖昧に笑うだけで、彼女の願望を否定しない。本当に優しい兄なのだ。
彼が清史郎にふさわしくあろうと常に必死に勉強をしている姿を、智秋はずっと見ていた。
(兄ちゃんが、いつか、清史郎さんの番になれますように)
智秋は兄の幸せを、ただ願うばかり。
だが、春海が清史郎の話題に、次第に積極的に触れなくなっていたことに、智秋はずっと気づかないでいた。
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