さらに続きます

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
真夜中のアパートにこだました。その水音を暫く聴いていた。耳を澄ますと、水音が変わる瞬間に気づく。さらに聴き続けると、そのインターバルもわかる。今だ、と蛇口に顔を近づけた。生ぬるい水が顔を叩く。またもや、水音が変わる。直接ステンレスを叩きつけていた水音は、当然弱くなっていた。俺も滝に打たれているような感覚になった。山奥にある滝壺をイメージした。真夜中の滝壺は、水音がダイナミックに響いた。空を見上げると、星が瞬き、隣接する竹林からは、時々吹き抜ける風が笹を揺らした。笹の葉を揺らす音は、気持も安らぎ、それと同時に、酔いからも醒めた。ゆっくり蛇口を閉めた。手を伸ばし、タオルで顔を拭くと、暗闇が目の前に現れた。これで眠れるぞ。思わず呟いた。気持が落ち着いたのも束の間。またしても、身体に痛さが走った。ベッドに戻る途中、足の小指を何処かにぶつけてしまったのだ。大声を出しそうになったが、時間帯を考えたのだろう。顔をしかめただけだった。感情が高ぶるが、怒りの矛先を転じる術もなく、渋々ベッドに戻った。早く寝なければ、と焦りつつ、まるで命を宿したようにぶつけた小指が痛み出した。脳裏には上司の顔が浮かぶ。寝坊するわけにはいかない。眠ろうとしても眠れない。焦りも頂点に達していた。手元のスマホで時間を確かめた。すでに四時をまわっていた。焦りはピークを迎えたが、眠れないのであれば仕方がない、と覚悟を決めた。カーテンの隙間からは、白い朝が顔を出していた。ここからがまた長かった。寝返りの繰り返し、行きたくもないトイレの往復、テレビのチャンネル回しやスマホ遊び……。それでも一向に眠気は襲ってこなかったけれども、仕事中に襲い掛かるであろう睡魔に、今から怯え始めていた。あの意地悪な上司の前では、眠るわけにはいかない。先日も電車移動の際、つい居眠りしてしまい、見知らぬ駅まで行ってしまったのだ。なぜ起こしてくれなかったのか、と上司を恨んだが、全てはあとの祭り。これこそ自己責任だった。時計を見た。もうすぐ出社時間が迫っていた。そして、先日のことを思い出した結果、人身事故の様子も脳裏に浮かんでいた。すぐに気分が悪くなり、片手で口を押さえながら流しに急いだ。大きく口を開け、頭を下げた。嗚咽の後、流れ出てくるモノは生唾だけだった。出勤しなければいけない。顔を慌てて荒い、大股で歩き出し、部屋干ししたワイシャツを羽織ると
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!