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夕暮れ時、廃炉になった火葬場から煙があがる。
それを見た私はひどく憂鬱になった。
そこは海辺に建設された火葬場。
数年前に経営者が自殺し今は使われていない場所だ。
…にもかかわらず未だにあの場所からは煙があがる。
新しい火葬場が建設されようと、コンクリートで煙突の穴を完全に塞がれようと、周辺を鉄柵で囲われようとも、あの場所からは未だに煙がたちのぼるのだ。
…そういう日には決まって近くの村に死者が出る。
救急車が来て、葬儀屋もやってくる。
そして遺体を新設の火葬場に持って行こうとするときに…それは起きる。
ここ最近、村の境界線を超えられた遺体はない。
村の境界線の近くまではいい。
だがその先を越した途端、霊柩車の中の遺体が煙のように消えてしまう。
消えた遺体のゆくえはわからない。
うわさでは、村で死んだ人間はあの海辺の火葬場で焼かれるという話だ。
でも、それは話だけ。地元の人はもとい今ではそこに誰も行かない。
行くこと自体を誰もが忌み嫌う。
私は家につくと厳重にカギを閉め、分厚いカーテンを引く。
火葬場から煙があがる日。
こういう日には、決まって夜間に出歩く者がいることを私は知っているからだ。
…夜の帳が降りる頃、私は静かに部屋の中央に行く。
光源は電気スタンドのみにし、カーテンからわずかな光も漏れないようにしておく。
もっと厳重な家はトタン板を窓に打ち付けておく。
それもこれも、みな用心するため。
彼らに見つからないように、彼らを刺激しないようにするために…。
ずり、ざりり…。
じゃり、ざり、ざり、ざり…。
…やがて、砂をこするような、乾いたものをこするような音が窓辺から聞こえて来る。
それは幾重にも折り重なる燃えた残骸が歩く音。
火葬場から這い出た『彼ら』が村を徘徊する音だ。
翌日に仲間が増える事を歓迎するかのように彼らは徘徊をくり返す。
そのたびに私たちは怯え、ただひたすら朝が来るのを待つ。
誰も外に出て、ぼろきれのような姿で彼らの仲間入りするのは嫌に決まっている。
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