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コンビニの床下にも、小人は住んでいる。
なにしろ大抵の物が常に揃っているから、一般の家庭よりもかなり環境は良いのだ。人間にとって便利なものは、小人にとっても同様なのである。
もちろん欠点だってある。店内は二十四時間明るく、常に誰かがいることだ。もっともそれも深夜帯になれば、ほぼ店員だけしかいなくなるから、あまり問題はないと言えた。
今日も夜更けになると、小人が姿をあらわした。床の一部がめくれ上がり、人型の小さな生き物が頭を出している。頭上に三角帽子を載せて、体にはチョッキとブーツを身に着け、いかにも小人という恰好をしているけれども、べつに義務付けられた服装というわけではない。このほうがもし店内で姿を見られても、マスコットキャラクターと勘違いされて怪しまれないのである。以前に〈十二人の怒れる小人〉という映画のキャンペーンで、何体かの小人の人形がディスプレイされていたことがあり、そいつらからはぎ取ったのだった。
小人は周囲を見渡した。そこは従業員用のスペースで、店内とは違って薄暗い。廊下みたいに細長くて、人間二人がやっと行き違えるぐらいの幅しかないところへ、パソコンデスクやパイプ椅子などが置かれていた。小人が頭を出したのは、壁に寄せられた棚の真下で、埃を被った物が隙間なく積まれてあるから、見つかる心配はなかった。
人間の姿も見当たらない。深夜帯は二人の従業員がいるが、どちらも店のほうに出ているのだろう。小人は床下から全身を出す。その際にちらりと、彼の住んでいる家の中が垣間見える。やはりいかにも小人らしい、木製の家具で統一された山小屋風の部屋だったが、もちろんそれも重要文化財に指定されているわけでもなんでもない。前述した映画のキャラクターグッズとして、小人の家を再現した商品が売り出されており、それを一つ拝借したのだった。
床が元通りに直された。そうして小人は今夜の仕事に取り掛かった。うちにあるライターのガスがなくなりそうなので、新しいものを頂くつもりなのだ。
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