夜のコント

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客の一人が、カウンターを注視しているのだ。ニット帽をかぶった男で、やや体を屈み込ませて小人を見ている。夜なのにサングラスをかけ、マスクまでしているので、いかにも人目を忍んでいる風だが、べつに小人の仲間というわけではなさそうである。 男は小人に手を伸ばした。軽々とつまみ上げると、顔に近づけてしげしげと眺める。小人は人間の指と同じぐらいの大きさで、ちょうどカウンターに乗り上げた時のままの姿勢だったから、顔は苦しそうに歪んだ表情で、体はドロップキックでもしているように折れ曲がっている。 それを見た男は、何かに気づいたように頷いた。そうして小人を元のところではなく、商品の棚のほうへ持って行く。お菓子のコーナーに並べてある、四角い箱の隣に置いた。 『十二人の怒れる小人』のキャラクターグッズらしい。箱の表面には、苦しそうに表情を歪めた小人が、ドロップキックをしているイラストが描かれてあった。 やはり服を盗んでいて良かった。男は満足したように、弁当コーナーの方へ歩いていく。危険が完全に去ったのを確かめると、怒れる小人は火種を求める小人に戻った。 見つかったのもかえって良かったかもしれない。小人が置かれてしまったコーナーは、ちょうど百円ライターが陳列されているのと同じ棚だったのだ。いつもなら棚に上るだけでも一苦労なのである。 小人は目的の物を目指した。もちろん姿を見られないように、棚の奥の暗がりを通る。商品もびっしりと詰め込んであるので、それをなるべく動かさないようにして移動しなければならないから、まるで障害物競争のようだった。 お菓子の箱や袋をかきわけて、カップラーメンの隙間にできたトンネルを潜り抜ける。そうして棚をぐるりと回り込むと、文房具コーナーに出くわした。ペン類を吊ってある金棒を、うんていのようにして伝って行き、ようやくライターのところに降り立った。
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