夜のコント

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 どうやらガス切れらしい。何度かカチカチ押していたが、いくらやっても駄目である。男は悪態をついてライターを投げ捨て、さっき見た小人のライターを取りに行った。 もちろんそんなものは売ってない。男はすぐに引き返してきて、従業員に掴みかかった。 「ライターはどこだ」 「僕は持ってません。売り場になかったですか。確か在庫が一個だけ残ってたと」 「ない。ついさっきまではあったんだよ」 「他にお客さんはいないみたいですけど」 「やっぱりだ。あの小人は本物だったんだ。おいおまえ、この店に小人がいるだろ」  男は従業員に詰め寄った。若者は先ほどよりも怯えた様子で、腰を抜かしたようにその場にへたり込んむ。 男は掴んでいた手を離した。そうしてがばりと四つん這いになって、血走った眼で棚の下を覗き込む。次第に熱中し始めて、爆発物まで床に放り出してしまった。 店の自動ドアが開いた。警察官が身構えながら、忍び足で入って来る。それに気づいた従業員が、地面にはいつくばっている男を指さした。 「そいつです。そいつが爆弾魔です」  警察官が男に飛びつく。しばらくもみ合ったが、やがて犯人はおとなしくなった。うわごとのようにこんなことを呟いている。 「小人はどこだ……」 尋ね人はもう自分の家に辿り着いていた。パイプ椅子の下の床をめくり上げて、ライターと一緒に潜りこもうとしている。もう一名の従業員も、駐車場に避難をしていて、携帯電話でどこかに電話をしているようだったから、やすやすとカウンターを回り込むことができたのである。 床の蓋が静かに閉まった。パトカーのサイレンが、徐々にこちらへ近づいている。(了)
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