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僕は、いつの間にネクタイが似合うようになった。
会社の飲み会もテキトーに酔って楽しむようになったし、後輩の相談を聞く機会も増えたと思う。
朝のバスだって、こっちが自意識過剰にならなきゃなんてことはない。
結局、たまたまその場に居合わせた者同士。それだけのことなんだから、肩がぶつかろうがヒールで足踏まれようが、そこに出逢いもアクシデントも愛憎劇もなんにもない。そう。ドラマなんてTVの中だけのことだ。
…って、なに悟ってるワケ!?
いいかい?僕は学生時代には演劇の作家として賞ももらった。地元の新聞にも大きく顔が出た。
ネットを通じて知り合った作家先生からは「いつ東京にくるんだい?」なんてことを言ってもらってる。
その僕が、今こうして、サラリーマンまがいのことをやっているにはワケがあるのだ。
実は、去年結婚した。そして子供が産まれた。
しゃあないじゃん。産まれたんだもの。
そう簡単に仕事変えたり、一人で東京に行ったりするワケにはいかないじゃん。しゃあないじゃん。
とにかく、産まれた子供は愛らしい。妻もかわいい。そうだ。その「しゃあない」だけの価値はあるのだ。
どうだ。マイッタか。
いや、そんなことはどうでもいい。
問題は、だ。その子供のことだ。
諸君は「○○は、子供へのはじめての贈り物」という言葉をご存知だろうか?
そう。その○○に、僕の、この13日間の悩みが集約されている。○○。そう。つまり名前だ。
学生時代、僕の作品のファンだったという妻は、いつもこう言っていた。
「あなたの新作を一番に読めるのは、わたししか味わえない贅沢よ」
「どうやったらこんな面白いものを書けるの?でもそれよりもこの物語りをつくった人がわたしの旦那様だなんて夢みたい」
聞けよ、メモせよ、泣け、喚け!
こんな台詞、作家冥利に尽きるってもんだ。
しかし、それは当然こうなる。
「この子には、あなたが名前を付けるべきよ、作家先生。とびきりの名前をつけて上げてちょうだい」
そう云われたら、こう返すしかない。何しろ相手は最愛の妻だ。
「そんなのは訳ないことさ、ハニー。任せてくれよ。きっと僕の作家生命をかけた、とびきりの名前をつけてあげるさ」
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