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髪もボサボサのままサンダルをつっかけて、近くのコンビニへと向う。
駐車場でたむろをしている学生をチラリとみれば、何が楽しいんだかキャッキャとはしゃいでいやがる。随分とお気楽な奴らなんだ。こっちは作家生命をかけた戦いのまっただ中だというのに!
店内に入ると、いつものチャイム。闇に慣れた目には眩しいほどの店内が現れた。
商品もキチンと揃っているし、床もピカピカ。
ここには人生に必要なものがほぼすべて揃っているのだ。ならば、やってみよう。
僕は商品を一つ一つ手にとって、自分の名字につけてみた。
石田チョコ
石田カップラーメン
石田パン
石田鶏から...絶望的だ。
石田雑誌
石田アイス
石田メモ帳
石田珈琲
石田…だんだん頭が痛くなって来た。
自分のやっていることが滑稽に思えて来たので、ここはもう諦め時だ。買うモノを買って、さっさとまたパソコン前で格闘するとするか。
レジに行って、ちょっと田舎臭い感じがするアルバイトに、声をかける。
「あの石田…いや、ハイライト一つ」
するとアルバイトは、石田レジを打ち、「こちらの画面をタッチしてください」と石田ボタンを案内する。
だから僕石田は、ポケットの中の石田420円を払い、レシートも受け取らず、そそくさと帰ろうとした。
その時である。
「ありがとうございました」
そう言った、そのアルバイトの笑顔が、不意に目に飛び込んだ。
何故かは解らない。本当に、日常的なことなのである。
でも彼女の笑顔が、僕の頭の中の霧をすべてふっ飛ばしてくれたのだ。
あぁ…そうか。
僕は部屋に携帯を置いて来た事を後悔した。
だから、マンションまで走った。
走って、走って、ちょっと転びそうになって。
ようやく部屋にたどり着いた時には、汗だくになって。
興奮してメールを打つのもままならなかったから、電話をかけた。
妻は、夜半の電話に少し驚いたようだったが、僕のただならぬ様相に迷惑そうなそぶりを見せなかった。
「決めたよ、名前」
「どんな名前?」
彼女の目が輝いた。
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