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「この店はとても便利だ」
そんな評価が口コミとして広がり、私が店員を務めるコンビニは瞬く間に人気になった。
けれど、私はどうしても疑問に感じてしまう。お客たちが口にする便利という言葉は、果たして何なのだろうかと。
「いらっしゃいませ」
店のドアが開いたのを確認して、お客様に判を押したような笑顔と擦り切れるほどに言い慣れた言葉を述べる。私の中でこれは一連の作業のようなものだ。「君は女の子で若いんだし、愛想よく笑っていれば客はいい気分になるんだよ」と店長に言われてから、確かにそうだと思って丁寧な対応を心掛けている。
けれど、私がこの店の従業員として雇われているのは作り笑顔を買われてのことじゃない。
私は、店の中を興味深そうに見渡すお客様に微笑みかけた。そして、いつも通り、マニュアル通りの言葉を口にするのだ。
「本日はご来店ありがとうございます。このコンビニでは、お客様に『便利』を提供しております。お好きなプログラムを手に取って、レジまでお越しください。そうすれば、お客様をたちまち『便利』な世界へとお連れ致します」
私の言葉に耳を傾けながら、先ほど来店したお客様は店内を物色する。その目に映るのは、数多くの食品や駄菓子、文具類に生活用品に野菜やおでんを並べているコンビニエンスストアの風景――――ではなく、レンタルビデオ店のようにぎっしりとケースが敷き詰められた棚の数々。数えきれないほどたくさんあるケースはシリーズごとに並べられており、人気なものや新作を特集したブースもある。
少しすると、お客様は新作の棚から一つのケースを手に取って私の元へ近づいてきた。
「その……これ、お願いしていいですか」
お客様がカウンターに置いたのは、『海外秘境シリーズ18・ツィンギ・ド・ベマハラ』のケース。
「かしこまりました。では、手続きを行いますので私についてきてください」
レジ裏にある連絡ボタンを押してから、私はケースを持ってお客様を店の奥へと誘導する。『エジェクトルーム』というネームプレートがかかった扉を開くと、部屋の中に見えるのは人ほどのサイズがある五十個の卵型機械。その中には一人用チェアとヘッドギアしかなく、ほとんどが蓋を閉じて銀色の光を薄くまとわせている。
私は蓋の開いているうちの一つを選んでお客様を誘導すると、卵型機械の横に備え付けられているタブレットを手に取る。
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