便利なモノ(1)

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「では、これより私共から『便利』なサービスを提供させていただきますので、まずはこの機械の中に入っていただけますでしょうか。その後、内部のヘッドギアを頭に装着してください」 私の言葉を聞いて、お客様は卵型機械の中に入り、一人用チェアへと腰かけた。お客様がヘッドギアを装着したことを確認すると、タブレットを操作して卵型機械の蓋を閉める。そして、制服にしまっていたインカムを取り出してヘッドギアを通じて音声を送る。 「お客様がこれから体験するのは『海外秘境シリーズ18・ツィンギ・ド・ベマハラ』のバーチャルリアリティです。機械の中では温度、衝撃等を調整し、ヘッドギアを用いて脳に映像を送ります。体験中の行動はお客様の自由ですが、これは夢ではなく環境装置と神経伝達プログラムによる意識への介入です。怪我につながる危険な行為は神経ニューロンから過度に伝達物質を放出させ、シナプスを通じて血圧上昇や運動エネルギー増加による酸素不足を引き起こすため、こちら側でも酸素濃度の調整を行いますがなるべくお控えいただけると……」 と、そこまで口にして気がついた。タブレットに映し出されたお客様の脳波を見る限り、私の説明に対してほとんど注意が向けられていない。こいつもか、と思ったけれど、詳細な説明を省いてすぐにプログラムを開始することは回転率の向上につながるから悪いことではない。少し癪に障るけれど、今ここにいる私は『便利』を提供する店の従業員。ただ、与えられた仕事をこなせばいい。 「では、プログラムをスタートします。終了時間になりましたらこちらから前もってお伝えしますので、私たちが提供するサービスを存分にお楽しみください」
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