便利なモノ(1)

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ピピピ、という電子音に気づいて目を開ける。レジ横のモニターを見れば、残りのお客様もあと五分ほどで体験終了だ。 私はレジ裏にある連絡ボタンを押し、店長を呼ぶ。店長はすぐにカウンターまで出てきたけれど、眠たそうな目を擦りながらあくびをするのには嫌気が差した。 「店長、お客様の対応についてなのですが、残りの二方がほとんど同じのタイミングで終了するため片方の対応をお願いします」 「えー、君ならそんなのどうだってできるでしょ。バーチャルリアリティー体験後の脳のクールタイムとか言って対応の時間ずらせばいいじゃない」 「た、確かにできますが……」 「ならそういうことでお願いね。俺はお金の計算があるから」 自分でも意外なくらい簡単に言いくるめられてしまい、行き場のない怒りが心の中に溜まってしまう。言い返せばよかった気もするけど、不真面目な店長からあんなに的確な言葉が飛ぶなんて思っていなかったせいでひるんでしまったのかもしれない。 諦めて立ち上がると、店長が思いついたように手を打ち鳴らした。 「そうだ。君はプログラマーとしても店員としても頑張ってくれてるし、来月振り込みになるけど時期外れのボーナスでも出すよ」 突然の提案を聞いた瞬間、私の心にあった怒りは綺麗さっぱりと消えた。つい心が浮足立ち、ボーナスが入ったらどんなことに使おうかという妄想が一瞬で膨れ上がる。 「店長。私、すぐにお客様の対応をしてきますね。二週間後に開始できると言っていた新作のプログラムも、具合は順調なのでサービス時期を早めましょう」 「おーおー、やる気だね」 「言ったでしょう。私は元々プログラマー志望なんです。今の私はお客様の対応を担当する店員ですが、本来なら……いえ、やっぱりいいです。今は、とにかくエジェクトルームに向かいますので失礼します」 ボーナスが入ったら、今使っているパソコンを新調しよう。CGソフトも今より質のいいサービスを探して、お客様のためじゃなく自分のために、満足がいく最高のバーチャルリアリティーを組み立てよう。そんな風に考えを膨らませていくと、なんだか無性に働くのが楽しくなってきた。
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