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「女将、流石でした!」  旅館の厨房では、若女将が女将に尊敬の眼差しを向けていた。 「聞いているだけで涎が垂れてしまいそうな説明だけでなく、この旅館の料理はお客様のために細心の注意を払った最高のものばかり使用しているなんて……本当に感激ですっ。私、この旅館に嫁いでやっていけるか不安でしたが、先ほどの女将のようにお客様のことを真に考えたおもてなしをできるようになりたいと思いました!」  若女将の感動に反して、女将は慣れた様子で次の料理を準備する。先ほどの知識は女将自身が料理の制作や考案に携わっているからこそだった。  けれど、そこには小さな秘密が一つ。 「まぁ。素直にそう感じてくれたのなら嬉しいねぇ。でもね、若女将のあんたには教えておくことが」 「すっ、すみません女将! 少し相談が……」 突如、慌てた様子の料理人が女将の前に現れる。女将のことを探し回っていたのか、額には玉のような脂汗を書いている。 「どうしたんだい、みっともなく声をあげて」 「実はっ、料理に必要なものがいくつか切れてしまいまして……。昆布が足りず、お吸い物やお椀をどうすればいいのか……」 震えた様子で話し料理人に対し、若女将は驚きの表情を見せる。 「昆布といえば、先ほど女将が北海道から取り寄せていると言っていたものですよね。ど、どうしましょう。そんなに貴重なもの、どうやって調達すれば……」 料理人と同じく動揺する若女将。 それを見て、若女将を大きなため息を吐いた。 「そんなもの、コンビニで買ってくればいいだろう」 「えっ……こ、コンビニ、ですか……? でも、さっき若女将が北海道からって……」 「あんた、新入りだね? だったら覚えときな。流通が進化した現代じゃコンビニにだって大したもんがそろってるし、まず昆布なんて出回ってる9割が北海道産だ。塩だって、ちゃんと見りゃ海塩も岩塩も加工塩も置いてある。料理人になりたいんなら、身近なところから調べておかないか」 「は、はいっ! すぐに探してきます!」
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